いつだったか、早朝まだ暗く静かな時間に目が覚めたことがありました。
七月の山口の朝は明け切らない頃からひぐらしやニイニイゼミ、ヒヨドリの声に包まれているものですが、その時はまだ誰も鳴いていなくて、ちょうど寝付けなかった私はひぐらしが鳴き始める瞬間を待ってみることにしました。
ひぐらしの声はいつも気が付くとたくさん重なって響いていて、あれは最初から皆で一斉に鳴き出すのか、それとも誰か一匹が先行して少しずつ増えるのか気になっていたのです。
しばらくしてカーテンの隙間からのぞく空がわずかに藍色に見えるかどうか、という頃に遠くから「カナカナカナ…」と一匹の声が小さく響いてきました。それから数十秒のちにもう少し近くで一匹、二匹。やや遠くで数匹と声が重なり始め、少しずつ増える静かな響きがさざなみのようにひたひたと打ち寄せてきて、数分でいつもの朝の声に包まれていきました。
それからは少し遅れて近くでニイニイゼミが「ジーーー」と鳴き出し、ヒヨドリも時々「ヒー!」「ピー!」と鳴き交わして、空が薄明るくなる頃にはすっかりいつもの朝の合唱が出来上がっていました。
その日はひぐらしの鳴き始める瞬間を確認できたので満足でした。
寝不足はすぐに皮膚が悪化してヒリヒリ痛痒くて辛いけど、こういうのは一生の宝物になります。
